■飛べない鳥 【2】■
[小説]




君を愛していると

云う資格さえ

僕には無いのかもしれない










「俺の片思い。でも、ずっと、永遠に愛してる」

其の言葉を聞いた瞬間、
何故だか泣きたくなった


『どうして』






「…っ…」

私が屋上の扉を開けた時、
彼は屋上の金網を音をたてて拳で殴りつけていた。大きな音を立てて
金網が揺れる。



「…楠くん」



…彼に声を掛けて良かったかどうかはわからなかった
金網を殴りつけていた彼。表情は見えないが、きっと悲愴な顔を
しているのだろう。

しかし私の声に反応し、振り返った彼は笑顔だった。

「…どうしたんだ、佐伯。こんな所で。」

その笑顔は完璧だった。しかし、目尻に溜まった涙を、私は
見逃さなかった。

「…先生が、楠は此処に居るって言ってたから」

「はは、ばれてら」

教室でふざけている時の笑顔を見せる。先刻、金網を乱暴に
殴りつけて居た人の顔とはとても思えなかった。

「授業、始まったよ。先生が、呼んで来いって」
いつもの私なら断っていた。今まで彼と喋る事すら頑なに拒んでいた
のだから。
しかし、今日は違う。昨日の彼の表情が、凄く気になる。


『どうして』


…彼は、私が思うような人じゃ無いのかも知れない。


「そっか〜。悪かったな、佐伯。わざわざ呼びに来させて」
へへへ、と彼は声を出して笑う。
「じゃ、教室戻ろうっか。」
屈託の無い笑顔。しかし
其の笑顔は、私には…


「どうして、いつも無理に笑ってるの?」


風が吹き抜けて、私の髪と、彼の髪を揺るがした。
暫し、沈黙が続いた。彼は、私の顔をじっと見つめる。


「…そ、れは」


彼はゆっくり、口を開く。
ゆるく生温い風が流れる。彼の目尻の涙を乾かす。
彼を縛り続けている、『何か』
其れは一体、何なのだろう…。


「…さくらが、俺を笑わせてくれないからかな…」


あの時見せてくれた一枚の写真を、ポケットから取り出す。
彼は其れを固く握り締めた。
さくら、と呼ばれた少女は、写真の中で笑っている。


「…ごめんな、ごめんな…」


彼は、確かにそう呟いた。微かな声だけれど、確かに。
…彼が苦しそうにそう呟く理由は解らない。しかし彼の胸の中には
その少女への愛しさが沢山、詰まっているのだろう。



「永遠に、お前を愛しているよ」










『どうして』


人を、こんなにも強く、愛せるのだろうか。





『どうして』


彼女は、今でも彼の心を凌駕し、蝕み続けて居るのだろうか。







目の前で、写真に問い掛ける彼に、私は声を掛ける事が出来ずに居た。


彼の苦しげな表情に、私の心も締め付けられるように苦しくなった。










彼に、鎖があるかの様に思えた


それゆえ、彼は飛べない。否、



『飛べなかった』んだ。




可奈
2005年04月29日(金) 21時04分37秒 公開
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